「えぇぇぇええええ!?」



突然艦内にものすごい声が響く



「うるさいなぁもう」



耳をふさぎながらそういったラスティの頬は腫れていた
















「おま、お前…、あの後そんなことしたのか…!」



無理にでもを止めるなり逃げ出さずに一緒にいるなりすれば良かった
と、ミゲルは後悔に顔をゆがめる



「直接聞けとか言って誘うから」

「誘ってねーよそれは!」



驚くまもなく非常識な発言を繰り返すラスティ
つっこむこっちの身にもなってほしい
いや これはそんなのんきな事態じゃないか




「それよか、どうするんだよ今日から」

「ん?」

「気まずいんじゃないの?」

「なんで?」



まるで自分はいっさい悪くないとでも言いたげな彼にミゲルは大きなため息をこぼした
ラスティは一瞬こちらを見て また視線を前に戻す



「でも、嫌われたかも」



そうして得意の腹の黒さをにじみ出した笑顔を向けながら言った



「まぁしばらく見守っててよ」

「…はいはい」



言われなくても是非そうさせてください
とっさにそう言いそうになったが口から出ればラスティがどうでるか判らない
ややこしい事態に巻き込まれたくないのでぐっと口を閉めてミゲルはその場を離れることにした


 
 

「さーて、訓練にでも行こうかな」



ひとりでつぶやき、ラスティはトレーニングルームへと足を向けた
休暇は昨日で終わっており、訓練も本日から始まっている
ただ緑との練習メニューは違うため、赤だけがヴェサリウスに集まることになった




















トレーニングルームのドアはあいたままになっていて、少し離れていてもそこから蛍光灯の光が見えるのが分かる
集合時間よりやや早かったが、さすがはエリートと言ったところか
そこにはすでに赤をまとったメンバーが集まっていた




「おはよ、ラスティ。珍しく早いんだな」


いつも遅刻なのに、とつけたして言ったのはディアッカ 横にはイザークがいた

たまにはね、と軽く笑いながらラスティは一歩、部屋へ足を踏み入れる
完全に部屋に入る前にざっと見渡すと部屋の端には休憩用のいすがあって
そこにニコルとが座っていた

ラスティの目はすぐさまそちらに向いてしまう





「ラスティ!?どうしたんですか、その頬…!」


ニコルはそんなラスティを見つけるなり声をあげた


「これ?何でもないよ」


自分の左頬を触ると同時に、ニコルに向けた視線をに戻すと目が合った
このひどい腫れを見ても申し訳ないと思うことなく、これでもかというくらいこちらを睨んでいる


「でも結構腫れてますよ…?ぼく冷やすもの持ってきましょうか?」



そんなにも気づかずニコルは続けた



「あはは、いいよ大丈夫、もう痛くないから」



ラスティはまだ心配そうにしているニコルに礼を言いながらにっこりと笑う
そして何歩か歩いて休憩用のいすの前に立った


「おはよう。隣座っても良い?」



今度は目を合わせようとしないだが、ラスティはおかまいなしに隣に座る







「ぼく先にシミュレーション始めますね」



そう言ってニコルは一足先にMSのシミュレーションを始め、
一方のディアッカとイザークはなにやら話しこんでいる
誰もラスティとの気まずい空気に気づくことはなかった



はずっとラスティとは完全に逆の方向、ニコルのシミュレーションを眺めている
ラスティも気まずいと思うことなくそんなを見ていた






「…なにか、言いたいことはないの?」

 
 


視線をそらしたまま先に口を開いたのは
が見ていないのを良いことに、ラスティはニヤっと笑みを浮かべる




「『昨日はごめんね』」



ラスティがそう言った瞬間はラスティの方を向き、先ほどよりも鋭い瞳でにらみつけた




「本当にそう思ってるの?」

「思ってないって言ったら?」





パチン!

あのときと同じ、威勢のいい音が響いた
これにはさすがに部屋にいたメンバーも驚き、動きが止まる





「はは、冗談だよ」



さらに赤くなった頬をラスティはおさえることもなく言ってのけた



「………最低」
 
 
 
勘の良いディアッカを除いて、2人はなにが起こったのかさっぱり分からないという表情を浮かべ
同時にどうしたらいいのか分からない空気に悩まされていた




















「訓練のメニューは組んであるから。はい、これ」



と、最後に来たアスランは何も気付かないまま全員にメニューをくばりはじめる
一方、昨日と同じところをはたかれ、いっそう赤くなったラスティの左頬は恐いほど腫れていた




「じゃあ僕医務室いってきまーす」




挙げる必要もない手を挙げ、許可を得る前にラスティはすたこらと勝手に部屋を出た





「…何かあったのか?」




相当鈍いアスランは、近くにいたニコルに問いかける




「僕もよく分からないんですけど、がラスティを叩いたみたいです…」



ニコルはの目を気にしながらボソボソと答えているのに
アスランはあまりの衝撃についの方を向いてしまった
 
幸いはわざとなのかあらぬ方向を向いていて 気付かれることはおそらくなかったが




「奴のことだ、どうせまたくだならい事でも言ったんだろう」



それより早く始めよう、とでも言いたげな顔でイザークが横から会話に入る
そうだな。というアスランの声とともに各自訓練をはじめることにした
















、大丈夫?」


ナイフを手に取るに、ディアッカは心配そうにたずねる



「ディー…」

「ま、なんかあったら言ってくれよな」

「ありがと、ディー」



俺に任せなさい!という風なポーズまで取って言ってくれたディアッカに、は微笑んでで返した

彼女にとってディアッカは、気をつかわなくていい存在で、会ってすぐに仲良くなった
いつも頼りにしてきたが、さすがにこればっかりはあまり言いたくない 
というか、言えない
親友でヴェサリウス専属軍医のキャロルにだって、昨日のことは言っていない










(本当に、なんであんなことするのか判らない!非常識にもほどがあるよ!)



昨日あんなことがあった後、は、眠れずにただひたすらボーっとしていた
目を瞑ると、目の前まで迫ってきたラスティの整った顔が鮮明によみがえるのが嫌で嫌で仕方がなかった


今でも信じられない







 

クルーゼ隊に入隊が決まった後、前に所属していた隊の隊長、アンドリュー・バルトフェルドが言っていた

「軍隊っつーのは普通ここみたいに良い奴ばっかじゃないから、気を付けるんだぞ」


(ほんっとにその通りだったよ いい人もいるけど)

(って今思いだしてどうするの…!)


下に向けていた顔をふるふると横に振り、ぐっと前を向いて訓練を再開させた









その日の訓練にラスティは戻ってこなかった

























あとがき

ラスティが鬼…!^^ 
これからもっと嫌なやつになっていく予定です。どうか嫌わないで下s…OLT


2006/07/29