「あぁもう!信号早く変わってよ!」

はイライラしながら赤色に光る信号機に足止めされていた
せっかく走ってきたのにまた追いつかれてしまう

電車に乗ればこっちのものだ
ここはなんとしてでも逃げ切って、早く警察に行こう














ヘンタイにする日





















「せ、せ、せめて名前だけ…」

ぜぇはぁと息を切らし、ユウナは彼女を追いかける
体力には全く自信がなく少し走るだけでも精一杯だった


「ゲ、あいつ…!」



フと振り向けばもう5メートルかそれぐらいの距離にアイツが居た

マジで気持ち悪い
あたしが何したって言うの…!


まだ信号は変わらないのか
焦りながら、顔だけをユウナの方に向けて見張る

すると








「危ない!」

「キャァァア!」







急に知らない人の声が聞こえて、何が危ないのよと思った
とっさに前を向くと車道を外れた車がこちらに向かって来ているではないか





は?






歩道の、車道ギリギリに立っていた
身動きが取れなくなった
あとわずか数メートルで車に接触する
車はブレーキもかけず進み続けてるから、時間にしたらほんの一瞬だろう




居眠り運転?
飲酒運転?
ヤクやってる人?


何でも良いけど








あたしもしかして



―──死ぬ?














さっきからやけに時間が遅く感じられて
絶対危ない状況なのにすごく頭が冴えた



それでも足は震えちゃって動かなくて















今日はホントについてない
最悪の日

こんなにもくだらない日にあたしの命が終わってしまう








「―──っ!!!!」











何か…さっきの変態の声がする
ユウナとか言ったっけ


全部アイツのせいなのに、何で最後にあたしはアイツの声を思いだすわけ?




目を瞑りながら、真っ暗な視界の中で考える
そうするとフと気が付いた




ってかなんであんたがあたしの名前知ってるのよ
ますます変態じゃない


前から調べてたってこと!?
もしかしてホントにストーカーだったの!?








「ふざけないでよ!!!!」

「うわぁ!」






バッと目を見開いて体をおこすと、そこにはユウナが居た





「だ、大丈夫だった…?」

「は?」

「ケガは?」

「アンタ鼻血出てるけど」

「う、うそ!?」





冷静に喋ってみるが状況はイマイチ理解できないでいた
キョロキョロと周りを見渡すと


ここは歩道の上で
さっきの車はあたしのすぐそばで、信号機にぶつかって煙を上げている


そしてあたしは生きてて
それどころかケガ一つなく、ピンピンしてるのだ




もしかしてコイツがあたしを助けたの?

ま、まさか、ねぇ









すると

「おおお!すげぇぞ紫頭!」

「お前勇者だよ!!」

「ケガなくて良かったなぁ嬢ちゃん!!」


野次馬が好き勝手に騒ぎ始める

やっぱり
あたしコイツに……!?






「フフ、ありがとう!ありがとうねぇん♪」



鼻血を出しながら嬉しそうに調子に乗って手を振るコイツを見て本気でキモイと思った




だけど




「あ、 ありがと…一応」

「ううん、気にしないで良いよん」




キモイけど
キモくて仕方ないけど


にっこり笑ってみせるコイツを少し見直した























そうやってあたしは九死に一生を得たわけだけど
あたしはケガしてないし
コイツも顔面からコンクリートに突っ込んで出た鼻血だけだし(あたしにはどうやったらそうなるのか分からない)
病院には行かなかった



警察もたくさん来て、事情聴取されて

さてやっと帰れる、と空を見上げたときにはとっぷりと日が暮れていた





「ありえない…」

「何が?」

「あ、そうだ!何でアンタあたしの名前知ってたのよ!」

「じ、実は少し前から君を見てたから…」




やっぱりこいつはストーカーだった
だけど悲しいかなあたしは
このストーカーに命を助けてもらってしまったワケで




「勇気を出して今日は声かけてみたんだよぉ」

「あっそ。どうでも良いからアンタの住所教えて」

「え?」

「ちゃんと借りは返すから」

「借り、って…僕はそんなつもりじゃ…」

「良いから教えなさいよ」

「嫌だよ!」

「じゃあアンタが帰るのに着いてく」

「ス、スス、ストーカーじゃないか!」

「アンタにだけは言われたくない!!!!!」




厳しいツッコミを入れてからも、彼の住所を聞き出そうとするが
彼が決して口を割ることは無かった




「じゃぁさ、」

「なによ」

「僕と友達になって」

「…ハァ!?」

「それで貸し借り無しって事にしようよ〜」

「意味が判りません」



突然何を言い出すのかと思えばコイツは
何であたしが変態ストーカーと友達にならなければいけないのか


だけど
あたしに拒否権なんてないのかもしれない




ケガはなくても、助けて貰ったんだから
もしかしたら、あたしの代わりにコイツが死んでてもおかしくない状況で
そう考えるととても胸が痛んだ





「…なんで?」

「初めに言っただろぉ?君の髪すごく綺麗だし」

「は?」

「前から見てて、友達になりたいなって」

「………」

「それに僕あんまり友達いないしぃ」

「だろうね」

「こんなに気が強いとは思わなかったけど…」

「それはアンタが変態だからよ」




どれだけあたしが言い放ってもあたしから離れようとせず、諦めようともせず
むしろニコニコしている

キモイ
こいつこの自信はどっから来てんのよ




キモイけど、仕方ない
キモイ点を除けば、良い奴なのかもしれない

ってそれは当たり前か






「わかった、じゃあ友達になるよ…」

「ほ、本当かい!?」


パァっと一層明るくなったユウナの笑顔に、少し見とれてしまった





















あとがき
キモユウナが難しいですねぇ。(汗