あたしには記憶がない
どうしてだか分からないけれど
ナチュラルと、コーディネイターの戦争
そんなの知らなかった
生まれてからの記憶が、全部無い
先の戦争が終わって、宇宙を漂っていたらしいあたしはオーブに連れられた
アレックス・ディノというあたしと同い年くらいの男の子が
オーブは安全だから。そう言って
あたしはコーディネイターで
アレックスも、コーディネイターなんだって
でも
今あたしの目の前にいる、藤色のすこし癖のある髪をした彼は
ナチュラルで
オーブ評議会の評議員で
何にもないあたしなんかとは、住む世界が違う
なのに、どうしてそんなに優しいの
「?」
暖かくて、どこか落ち着く声で名前を呼ばれ、ふと我に返る
「どうしたの?気分でも悪い?」
男にしてはすらりと細く、美しい繊細な手のひらを、の額にそっと触れさせる
の体がピク、と少し反応を示した
「ユウナ、違うの、何ともない。ちょっとだけ考え事」
「考え事?」
「ん」
軽く頷いたまま顔をあげないを傷つけないように
ユウナはそっと、肩に手をやる
「…大丈夫だよ」
だいじょうぶ
記憶を失ったの心は不安で満ちている
ユウナはそれを知っているから
が一番安心する言葉を、ゆっくりと、何度も、与えるのだ
だいじょうぶ
それを与えられたの顔が、ユウナはとても好きだった
微笑むではないが、どこか幸せそうな、嬉しそうな、
それはユウナにしか見せない表情
その表情が、ユウナを惹き付けていることをは知らない
何もない自分に優しく接してくれるユウナに、ただ甘えていた
好きという感情もには理解できず、ただ、こんな毎日が過ぎればいいと思っていた
ス、との肩の力が抜ける
それをユウナは見逃さない
一気に、の体を包み込み、正面から抱きしめるような体制にもってゆく
するとは恐れながらも、ギュ、と抱き返してくれるのだ
は理解はしていないが、ユウナを好きでいることはほぼ間違いない
そんな合図であり、抱きしめて突き飛ばされたことは今のところ無い
「、好きだよ」
耳元でそっとつぶやいてやる
するとまたの体はピクンと反応を示した
「ユウナ…?」
「好き、分かる?」
「よく…分からない」
「僕はが好きだよ。は僕を好き。」
分かる?
とまた同じ事を聞いた
「あたしが、ユウナを好き?」
「…多分ね」
「あたしがユウナを好きだと、ユウナはどう思うの?」
抱きしめられたままの体制で、顔をあげは言った
無垢の瞳でユウナをみつめる
「嬉しいよ、すごく」
「…嬉しい?」
「うん、嬉しい」
微笑みながら、その瞳に言ってやった
その瞬間ユウナは確かに見た
の顔が少しではあったが紅潮した
はそれを隠すようにと、ユウナの胸に顔を埋め
ただ首を横に振った
「あたし」
「あたしなんにもない」
「……?」
「あたしは何も持ってない…自分が誰だか分からない」
「……」
自分の考えていることを、口に出すのは難しい
うまく言えなくて、訳も分からないままはぽろぽろと涙を流した
「でもユウナは違うの。ユウナはちがう」
「何も違わないよ、」
「違うの!あたしとは全然違うの!」
ギュ、とユウナの腰にきつく回していた手を離し、一歩、後ろに下がる
ユウナもそんなに驚き、抱きしめていた手を離してしまった
「だからあたしがユウナを好きでも、ユウナはあたしを好きでいちゃだめ…」
子供のように涙を流し続けるの目線にあわすようにユウナは少し腰をかがめる
恐れないように、そっと手を頬に当て涙をぬぐった
「どうしてそんなこと言うの、」
はうつむいたままで聞いている
「僕がを好きかどうかは、僕が決める」
「さっき言ってくれたね、僕を好きだって。僕はすごく嬉しいんだよ」
が好きだから
「でもあたし」
「なにもなくたって良いじゃないか、記憶が無くたって何も関係ないよ」
なにもなくていい
が心のどこかで一番欲していた言葉
誰かに、認めて貰いたくて
ずっと探してた言葉
「………ユウナ、あたしは…」
「大丈夫。オーブは、が幸せに暮らせる国にする」
「だいじょうぶ…」
「うん、大丈夫」
優しく微笑んだユウナの胸元に、は勢いよく飛び込んだ
は軽い方だが、重力には逆らえず、二人して床に転ぶ形になってしまう
「大丈夫、好き。あたし、ユウナが好き」
ユウナの腰のあたりに覆い被さる形でちょこんと座るの顔は笑顔で満ちていた
それはユウナでも見たことのない笑顔で
「僕も、大好きだよ、」
あまりに嬉しくなって
顔を赤らめてそう言った
あとがき
ユウナ夢です。何コレ…!!(笑)
(2005/04/05)