「ユウナロマ?」
彼を知らないはずのユウナがラスティの名を口にした
切れた右腕を軽く押さえながらユウナは記憶を辿る
初めて会ったときのはまだ記憶があって。
失う寸前に彼の名前を口にした
ラスティ、と。
同僚・友達・家族………恋人
男か女ですらはっきりしてはいないけれど
間違いなくにとって大事な存在のはずだ
「ユウナが記憶なんてなくても関係ないって言ってくれたから…だからあたし今は記憶を取り戻したいって思ってないよ」
少し前には自分にそう言った
今はまだ思いだしたくないと
なのにの居る前でラスティとやらの話をするのはよくない
ユウナの脳内ではそんな結論に達した
「い、いや、なんでもない」
ユウナがそう言ってから少しの間、部屋に静かな空気が流れる
はユウナの胸に顔をうずめたまま、まだすすり泣いていた
頭を撫でてやりたかったが、生憎右手は上がらない。一方の左手も、右腕を押さえていたことで血が付いてしまった。
「…とりあえずユウナ様の治療を優先します」
「そうだよな…。俺たちも、もうお暇するよ」
ディアッカがそういうとイザークはユウナの前に出た
「…何だい?」
ユウナはイザークの目を睨みながら言う
するとイザークは軽くではあったが頭をぺこりと下げた
「申し訳…ありませんでした」
「僕じゃなくてに謝ってくれ。」
「ユウナ…!…あたし…は、いいから…」
はイザークの方を向くことは無かったがそう言った
イザークも悔しさでいっぱいで、泣き出しそうな表情をうかべながらそっと部屋を出た
そのあとを、待てよ!と呼びかけながらアレックスが追いかける
「、ごめんな?ちょっとでいいからこっち向いてくんねぇ?」
話しかけたのはそこに残ったディアッカ
見かけによらず根は優しい彼は、謝らずにはいられなかった
あんなことをして。ユウナに至ってはケガまでさせてしまったのだから
「俺、ディアッカ。ディアッカ・エルスマン。」
はユウナの服をギュっとつかんだまま、顔だけをディアッカの方に向ける
涙はようやく止まったが、目は真っ赤に腫れていた
「さっきはイザークが酷いコトしてごめんな」
の身長にあわせて少しかがんだ姿勢になり、ディアッカは語りかける
「あいつ感情をコントロール出来ないからああいう風になっちゃうんだ。」
「……うん」
「でもな、俺もイザークもお前のことたくさん心配してて、すげぇ大事に思ってるからさ。だから、分かってくれ」
「……」
「記憶がないのはお前のせいじゃないからさぁ、泣かなくて良いよ」
「…ディ…」
「ディアッカ。もしこの先記憶を取り戻したいだとか、忘れる前の自分が知りたいとかそう思うことがあったら」
ディアッカはポケットから取り出した財布から名刺を抜き取り、の手に半ば無理矢理握らせた
「何…コレ…」
「名刺!俺のメールアドレスとか書いてるだろ?ここにメールちょうだい」
にっこりとに微笑みかけディアッカは言った
それはにとってとても安心出来るもので
気のせいかも知れないが少し懐かしい感じもした
「俺もイザークも、お前のためならなんでもするからさ」
「ディアッカ…」
「お前が生きてたってだけでも知れて良かったよ」
「うん…」
「ユウナ様、本当に申し訳ありませんでした」
「大丈夫だって言っただろ?気にしないでくれ」
やれやれ、とでも言いたげな表情を浮かべ
ディアッカはぺこりとお辞儀をすると部屋を出た
アレックスと3人でなにやら話をしながら玄関を出る声がわずかに聞こえる
なんだったんだ一体。結局こちらには何の情報も入ってこなかった
聞くだけ聞き出して。を苦しめて
胸の奥からフツフツと怒りが沸いてきたが、それよりも腕の痛みが限界に来ていた
血も結構出ているみたいだ
「ユウナ…腕…あたしメイドさんに言ってお医者さん呼んでくるから…」
「あぁ…ごめんね…ありがとう」
が部屋から出るのを確認すると、ユウナはその場にそっと寝転がり気を失った
あとがき
今回はいつもより少し短いです。ディアッカが良い奴すぎたかも。(汗)
(2005.06.04)