「ドクター」






ユウナは真剣な面持ちで、医務室のドクターに話しかけた


が初めてここに来たとき、担当してくれたのもこのドクターだ
ユウナの幼い頃からいる なじみの深い人物

だから、この人なら知ってるかもしれない




ユウナは、ベッドに横たわるの首からかけられた懐中時計を眺めていた


鎮痛剤を打ってもらい、すやすやと眠る
"たくさんの人を殺した"
と彼女は言った



は、記憶を取り戻し始めてるのかな」

「確実とは言えませんが…もしかしたら」

「夢に出てくるとか、そういうのはあり得る?」

「あるかもしれません」



ここ1年半
一緒にを見てきた者として、ドクターもとても心配していた


運ばれたときは、確かに酷い怪我だったから
あのときは応急処置しか出来なかったけど
こんなに笑う彼女や、ユウナ様をずっと見ていたい
そう 感じていた





「ドクター」

「…?」

「僕が懐中時計を持ってるのを見たことあるかい?」

「…いえ、そのような記憶は…」

「だよ、ねぇ…」





あれからアルバムをひっくりかえし、昔の写真を見たり
物置や机など、ありそうなところはすべて探したが、懐中時計など見つからなかった

が言うのなら間違いないと
あの時確かに思ったが、これは僕との記憶ではなくて

……おそらくは…―──







「知らないうちに思いだして、は記憶がこんがらがってる、気がする」

「懐中時計と関係あるんですか?」

「僕が持ってるから、おそろいの物が欲しいと言ったんだ。だけど僕は持ってない」

「…!」

「実はついさっきも、"たくさんの人を殺した"と言った」

「!」

「僕なりにいろいろ考えて調べて…彼女がザフト軍の軍人だったことは知ってるんだ」

「ザフト…軍…で すか!?」

「うん、やっぱり…」

「ユウナ様!お時間です!」




コンコンとノックをしながら、メイドがユウナの言葉を遮る

今日は夜も会議がある
どうしても話し合わなければならないことがたくさんありすぎて、長引いてしまうのだ





「…じゃあ、悪いけど頼むよ、ドクター」

「かしこまりました。お気を付けて」



ドクターが見送り、ぱたんとドアが閉まるのとほぼ同時


「ん…」


がベッドからむくりと起きあがった


ちゃん!もう大丈夫かい?ユウナ様は今仕事に出かけられたところなんだよ」

「だいじょうぶ。話があるの…」

「俺、に?」

「うん、聞いてくれる…?」



うつむいたまま話すに、ドクターはもちろん、と答える



ちょうど点滴も残り少なくなっていたのでそのままはずす事にした
ちょっとだけ痛いからね、と言われてから針を抜かれた腕をおさえて、は今にも泣き出しそうだった





「あたし知ってるの」

「何を?」

「あたし、軍人だった…」

「!!!」

「何度も夢を見るの…核とか、ジェネシスとか…あたしは宇宙にいて」

「ザフト軍の…軍人…」




ユウナの言うことは本当だった
ユウナは果たしてが気付いていることを知っているのだろうか
そんな事を考えていると膝の上に置いたの手が少し震えるのが目に入る




「…それは別にいいの。」




ユウナが、記憶なんてなくても関係ないと言ってくれたから
今のあたしを好きで居てくれたらそれでいいと





「でもね」

「…でも?」

「あたし人を殺したんだよ…きっと、何人も、何人も」

「……」

「この手で、ユウナと同じナチュラルをたくさん殺したんだよ…」




ユウナのあったかい手とは全然違う
あたしの手は赤く汚れている 呪われてる 
そう思うと涙が止まらない
ごめんなさい ごめんなさい
あたしは何も知らないふりして…きっとどこかであたしを恨んでる人はたくさんいるのに




「こんなあたしを、ユウナはきっと…」

ちゃん…」

「だから思いだしたくなんてない!ないのに!!」




ないのに…
あたしが悪いんだ
きっと、罪滅ぼしに と
神様があたしにお仕置きしてる




「ユウナに嫌われたくない…好きじゃなくなっても良いから…、嫌わないで欲しいの…」

ちゃん…大丈夫だよ」

「…大丈夫じゃない!」

「大丈夫!ユウナ様はちゃんそのものが好きなんだから」

「………」

「君が誰であっても関係ないだろ?真実を知ったからって急に嫌いになるのも無理な話だよ」





ギシ、とイスに浅く座り、腕も足も組んだ姿勢で
例えば、とドクターは続ける






「例えば、もしユウナ様が君と出会う前、同じように軍人で人を殺したことがあるとしよう」

「うん…」

「君はユウナ様を嫌いになれるかい?」




ならない
なるわけない
あたしがユウナを嫌いになる日なんて絶対に来ない

そんな想いがつのり、は思い切り首を横に振った





「そうだろう?理屈じゃないよ。ユウナ様は純粋に君が好きなんだから」

「ほんとうに…?」

「本当だよ。だからもう泣かなくていいから。苦しまなくて良いんだよ」

「…うん…ッ!」





現にそのことを知りながらもにつきっきりのユウナを見ているから
自信を持ってそう言う事が出来た





(ユウナ様もちゃんも本当に幸せだ)


心からそう感じる
ただ、お互いに本当に不器用なだけで


だから少しだけ背中を押してやればいい


ユウナ様が戻ってきたらそうしよう
本当に2人にはずっと笑っていて欲しいから





を見て微笑みながら、ドクターはそう考えていた


















突然ドタドタと騒がしい足音が廊下から聞こえる



「誰か来る…?」

「みたいだね…」



「失礼します!ドクター、は!」




相当急いできたのだろう
ノックすることも忘れて勢いよくドアを開け
はぁはぁと息を切らして叫んだのはアレックス





「アレックス!」

…!な、重体だって聞いたんだけど…」

「まだ安静が必要だけど、元気だよ」

ドクターにそう言われ、ベッドの近くにあったイスにどっと座る

「良かった…」




じわりと沸いてくる汗をズボンから取り出したハンカチで軽く吹いて
に微笑みかけた




























あとがき
関係ない話。
なかなかカガリとちゃんの接触がないですが、仲良しなんですよ。(私の設定では)
アレックスは暇人なのです。(私の設定では(笑))
(2005.07.21)