「すみません、女の子を捜しているんですが知りませんか」






アスランはごく少ないが、外にいる人々に手当たり次第声をかけていた
さすがに視界が悪すぎて、を見たという人はいない


(クソ、こんな所で足止めされていたら…)



時計は持ってきていないが、もうすでに30分は経ってしまっただろう
おそらく22時をまわっているはずだ
いくら軍人といえども、この天候で、暗闇の中を歩くのは好ましくない
それには今とても不安定なのに




(とりあえず、街まで出てみるか、それしかないな)




































「、はぁ…」


荒い呼吸を懸命におさえ、は足を止めた
目の前がパっと明るくなる
街だ
 
街に着いた










再び重い足を引きずり、街の中心へ向かう
この雨でも思ったより営業している店は多かった


キョロキョロとしていると、目に飛び込んだのは雑貨屋
あそこなら









ダ、っと地面を蹴り、びしょぬれの体で雑貨屋へと入った
店員が驚いてコチラを見ている事も
他の客があからさまにあたしを避ける事も

ココまで来たらもう何も気にならない




だってあたし 生きてちゃだめだから
酷いこといっぱいしたから






まだまだあったはずのラスティの人生は
あそこで終わるはずだったあたしの命に邪魔された









そんなのってない
そんなのってないよ


だからあたし どうしたらいいか分からなくて
こんなことしか思いつかなくて












店に入ってすぐの棚に、カッターナイフを見つけた
そこから乱暴に一つ握り、勢いよく走って店を出る



「キャアァァァ!」

「ま…万引きだ!誰かあいつを捕まえてくれ!」



誰もがに注目していた
店員はもちろん、客だってそうだ
がカッターを持って逃げた事は、店にいた誰もがすぐに気付いた










「ハァ、…ハァ」






もう感覚のない足を無理矢理に走らせる
軍人だった頃の体力は多少衰えているものの、地上戦が得意だったには誰も追いつけない
たくさんの人が追いかけてきていたが、なんとか振り切る事が出来た



「も…だめ…」



真っ暗でなんにも見えない所まで走ってきた
おそらくもう街の端の方なのだろう
開いている店も全くと言って良いほどにない




すっかりと気が抜け、ぺたんとその場に座り込むと
先ほどのカッターの刃を10センチほど出した




「これで…」





するどく尖った刃を ス、と左手の手首に当てる
覚悟は決めた
あとは思い切り切ればいい

この雨だと、そう簡単に傷口も塞がろうとはしないだろう







「遅くなってごめんなさい」



ぽつりと呟くと、カッターを持つ右手にぐっと力を入れた
手首からはじわじわと血がにじみ始める





「今から行って、たくさん謝るから」



だから…










降りしきる雨の中、わずかにカッターが落ちる音がして
は徐々に地面に倒れ込んだ
地面では雨と大量の血が混ざっているはずだが、暗くてそれも見えない



ホントに暗さのせいかな?
全身の感覚がなくなって、体が熱いのか冷たいのか 痛いのか痛くないのか
なんにもわかんなくて




死ぬってこんな感じなのかな?
ラスティもそうだった?
痛くなかった?ラスティは死ぬ前に何を考えた?

あたし今、ラスティの事考えてるよ



本当に ごめんなさい 
































最大限のスピードでエレカを走らせ、アスランはようやく街に到着した
適当なところへそれを止めると 少し先に数人のひとだかりを見つけた




「あ、あの、何かあったんですか?」

「うわ、アンタもびしょぬれじゃないか」




そのうちの一人に声をかけると、驚かれてしまった
仕方がない 傘も持たず飛び出したのは俺も同じだ


アンタも…
俺 も…?





「アンタみたいにびしょぬれになった女の子が万引きしてったんだよ」

「え!?」

「足が速くて追いつけなかったんだよな」

「その子、どこに行ったんですか!?」

「さぁ…あっちの方向へ行ったのは間違いないけど…」

「ありがとうございます!!」



間違いない、それは
しかし万引きとは、何を考えているんだろうか


何も分からないまま、指のさされた方へ 暗闇が続く道へととにかく走った































「ユウナ様!ユウナ様!!開けて下さい!」


ドクターがしきりにユウナの部屋のドアを叩く
アレックスの言うように、ユウナとの連絡が取れなかった

だが会議が中止になっていることはきいている
エレカも駐車場にあった


それならやはり部屋しかない
そう思い、部屋に駆けつけると、案の定内側からカギがかかっていたのだ




「いるんでしょう!?ユウナ様!返事して下さいよ!ちゃんが…!」

「……の事は知ってるよ…」

「ユウナ様…!」

「記憶、戻ったって…、でも」

「今はそれどころじゃありません!!居なくなってしまったんです!」

「え?」

「少し目を離した隙に、窓から脱走したみたいで…」



言っている途中で勢いよくドアが開く
そこへ姿を現したユウナは、服装も髪型も乱れていた




、いまどこに!?」

「分からないんです。アレックスくんが追ってますけど…」

「そ、っか…」

「我々も追いかけますか?」

「僕がいくよ。入れ違いにならないよう、君はここに残っていてくれ」




その目に光はうつっていなかった
おそらくユウナ様は記憶を取り戻した姿を見たのだろう
あれだけ、自信を持っていたユウナ様でも、やはり現実を見てしまっては違う




「ユウナ様、大丈夫ですか…?」

「大丈夫じゃないのは僕じゃなくてだよ。僕は、なんとも ない」







そう言い残して、ユウナは玄関の方へと足を向けた












































「お、おい、しっかりしろ!おい!!」


街では一人の男の声が響く
しきりに少女に話しかけるが、反応は全くと言って良いほどない



このままでは暗くて状況判断が出来ない と、
男はとりあえず自分の家にあげる事にした




























































あとがき

血が苦手な方には申し訳ないです。
私も苦手で、読み直すのがすごくいやでした。(汗)

(2005.10.22)