「クソ、どこに行ったんだよ、…!」
無事だと良いが、嫌な予感がする
先の見えない道をひたすら探し続けているうちに
さすがのアスランの体力も持たなくなってきていた
「嬢ちゃん…!一体どうしたんだ!」
を拾った男は、すぐに左手に刻まれた傷をふさごうと
自分の服を脱いでそこにあてる
彼女の首からぶらさげられているそれは、間違いなく懐中時計
以前、自分が売った 懐中時計
が倒れていたのは、偶然にも時計屋の前だった
「ユウナ様、ちょっと待って下さい!!」
「え?」
「お電話です、時計屋の人らしいですけど」
「時計…?」
ユウナが急いで部屋を出ようとしているときに電話がかかってきていたらしい
なんでこんな時にかけてくるのか
焦りから少しイラついたが、ドクターから電話を受け取った
「もしもし?」
「ユウナ様!あんたの彼女がここにいる!」
「…は?」
「嬢ちゃんだよ!前に時計を買いに来てくれただろ!手首切ってて、大変なんだよ!」
「…!?手首、って」
「いいから来てくれ!うちの店は街のはずれにあるから!!」
とにかくせっぱ詰まった様子で、電話の男はブツリと切った
時計屋と言っていた 確かに前に買いに行ったが、顔を知られていたのだろうか
だけど今はそんなこと関係ない
これが嘘でも本当でも、今すぐ行かなくてはいけない
だって
手首…を、切った って?
「ドクター!のいる場所が分かった!」
「本当ですか!?」
「手首を切ったらしいから、一緒に来てくれ」
「!?」
とまどいと焦りを隠せないまま、2人はエレカを走らせた
「ぅ…」
「嬢ちゃん!気がついたか!」
「だ れ…? ここ…は?」
ぼーっとする視界の中で、見えてきたのは一人のおじさん
心配そうにこちらを見ている
「俺は時計屋だ。覚えてないかい?嬢ちゃん、前にこの懐中時計買いに来てくれただろ」
―──懐中時計
その言葉を聞いてふいに彼の顔が脳裏によぎった
オレンジの髪を少し揺らして 大事そうに時計を握りしめて
優しく笑う 彼の顔
目も頭も 一気に冴え
さっきまで自分が何をしていたのか思いだした
「 ラ スティ」
「ん?」
「あたしッ!手首!」
「動いちゃダメだ!まだ完全に血は止まってないんだから!!」
「いいの!死ぬの!死なせてよ!なんで助けたの!?」
「なんで…って」
「あたし生きてちゃだめなの!ダメなんだから…っ!!」
そう言いながら、先ほど男が巻いた服を勢いよくはがしていく
服も腕も真っ赤に染まっていて
男はこのままでは死んでしまうと直感した
「フザけたことぬかすな!いいからちょっと落ち着け!」
「やだぁ、もうやだ」
「いいから、ほら、深呼吸して」
男は正面から向かい合っての肩に手を置き、暴れる腕を押さえる
じっと目を見つめると、は嘘のように黙り込んでしまった
「嬢ちゃんは今頭に血がのぼってる」
「……違う」
「少し落ち着いて考えてみろ」
「死ななくちゃいけないの…」
「何があったかは知らないけど、もっと周りを見ろ」
「………」
「嬢ちゃんが死んだら、周りはどう思う?」
男は真剣な面持ちで語りかけると、肩に置いた手をはずした
その時に一瞬目をそらすと、はすぐに下を向いてしまった
「嬢ちゃんが死んで、ユウナ様はどう思う?」
「…ユ ウナ…」
記憶が戻ってから考えなかったわけじゃない
ユウナの事は考えないようにしてた
あたしの頭は あたしの心は ラスティでいっぱいのふりしてた
だって そうじゃなきゃ ラスティがあまりにも
あたしが あんまりな事をしたから
あたしが全部悪いから
「あ…あたし…忘れないって言ったの…」
絶対に忘れないよって言ったの
なのに 約束したのに 何より大切なのに
どうして
どうしてあたしは忘れることが出来たんだろう
「あ たし… 思いだしたくないって 、」
あたしなんて言った?
ユウナと一緒にいたいから まだ思いだしたくないって
確かにそう言った
「ラスティは、護ってくれたのに…ッ!」
あの時、大きな爆発があって 眩しくって前が見えなくて
しばらくして重い目を開けたときには、ラスティが乗っていたジンの残骸しかなかった
ザフト軍の応援が来て 地球軍はいなくなったけど
あたしはどうしたら良いか判らなくて、泣きながらその場に立ちつくしてた
そんなあたしとラスティに追い打ちをかけるかのように、コックピットに響いたのは終戦を告げる放送
ばかみたい もう遅い ぜんぶ遅い
なにもかもどうでも良くなって目を瞑ると、あたしの頭にはラスティの声だけがぐるぐる回ったの
やくそくだよって
残ったのはそう言った彼の声だけ
ラスティは命を賭けて
あたしを護ってくれたのに
それなのにどうしてあたしは
あとがき
ユウナがどんどんヘタレになっていきます。
何とか見せ場つくるぞー。おー。(笑)
(2005.10.23)