カシャン
を探してただ闇雲に走っていたアスランの足に
音を立てて何かがぶつかった
「なんだこれ…? カッター?」
それを拾うと同時に、急に後ろから眩しい光にさらされる
「アレックス!」
「…ユウナロマ…!」
そこに居たのはエレカに乗ったユウナとドクター
「何をしてたんだお前、こんな時に!」
ドクターがいるのも気にせず、アスランはユウナの胸ぐらを掴んで怒鳴りつけた
暗くてもわかる程、彼の目は鋭くユウナの目を射抜く
「…時計屋、どれだかわかるかい」
「時計 屋…?」
服を掴まれたまま、ユウナは抵抗することなく淡々と話す
どこを見ているやらわからない、そんな虚ろな目で
「が居るって、電話があったんだ」
「本当か!?時計屋なら確かこの辺に…」
「ちょっとアレックス君、手に持ってるのは…?」
「これ…今ここで拾って…」
ドクターが気にかかったのはアスランの手に握られていたカッター
そしてそれを今ここで拾ったのだとすると
「それ…!ちゃんの血じゃないか!?」
「え…!?」
ボロボロと涙をこぼしながら、ラスティとつぶやき続ける
どうみても精神状態がふつうじゃない
何がなんだかよくわからないが このままじゃいけないと悟り 時計屋は語りかける
「おじさん、知ってたよ」
「……なに を」
「一緒に来たのがユウナ様だってことさ。知り合いに政治家が居てね」
「…だから…?」
「店に飛び込んできたときの嬢ちゃんの嬉しそうな顔も、忘れられねぇなあ」
「だから何なの!?」
「あの時の、あの顔はどこいったんだ?」
「ッ…うるさい!!!!」
どうしてそんな事を言うのか
どうしてそんな事を言われなければならないのか
この人が言っていることは別に普通の話で 何も悪くなくて
そんな事知ってるけど
だけどあたしの胸はすごくむかむかしてる
もうやだ
意味判んない
イライラする気持ちが一気に募って思わず部屋から飛び出した
そうよ
いつまでもこの場所にいる必要なんてなかったじゃない
死にたいなら
さっさと出て行けば良かったんだよ
「ちょ…ッ!嬢ちゃん!待て!!」
男はあわてて彼女を追う
自分の家はとても狭いが、それゆえに彼女はすぐに玄関にたどり着いてしまった
「関係ない!ほっといて!!」
後から来る男のことを全く気にせず、力一杯ドアを閉めた
力を入れたせいで、一度切ってしまった左の手首からは再び血が流れ始める
「… ?」
少し気になって手首を眺めると、聞き覚えのある声に名前を呼ばれた気がした
声のする方へ顔を向けると、こんなに雨が降っているのに前には人がいる
ふたり、…いや三人
「……ユ、ウナ… 」
「!どこに行ってたんだ!?」
「それ…、カッター…」
「え?」
ユウナよりも先に近づいてきたアスランの手には 先ほど盗んだカッターが握られてある
自分の血も 少し付いたまんま
「貸して!」
「っ、おい!!」
アスランの手から乱暴にそれを奪い取ると、刃を出して思い切り振り上げた
同じ所をもう一度刺せば きっと今度こそ助からないだろう
嬢ちゃんが死んだら、周りはどう思う?
時計屋のおじさんが言った言葉 少し気になったけど
お願い もう誰も あたしに構わないで
「ちゃん!!」
「やめ…っ」
ちょっとだけ怖いから 目をぎゅっと閉じながら
精一杯の力を込めて、勢いよく右手を振り下ろす
ドス
鈍い音がわずかに聞こえて、思ったより早くカッターは体に刺さった
あたしは何故か痛くもかゆくもなくて その代わりコンクリートに寝転ぶかたちになっていた
「…ユウナ 様…!」
「ユウナロマ!!」
あたしの上にはユウナが覆い被さっていて
あたしの右手とカッターは ユウナの背中に
重くのしかかっていた
「ゆ、ウナ……」
「、ッ―─!」
「……ごめ…」
「ど、うして こんな事…!」
「ご…めんなさい…!」
「違 う、どうして死のうと…ッ」
「ごめんなさ…ごめんなさい…」
雨と涙と血が混ざり合うなか ドクターとアスランの声が飛び交う
やっと追いついた時計屋は、さすがに救急車を呼ぼうともう一度家に戻った
「 」
「ごめんなさい…っ」
「…だいじょうぶ」
ユウナは震える手であたしの頬にそっと触れる
だいじょうぶだなんて言わないで
ユウナ おねがい
「優しくしないで…!」
「だいじょうぶ だから…」
「お願いだから!!」
苦しいくせに 痛いくせに
あたしが安心出来るようにと だいじょうぶって繰り返して
無理矢理笑顔を見せる
なにも変わらず接してくれるユウナ
みんな何も変わらないのに
変わったのはあたしだけ
だから言えなかった
でも、 おねがい
―─お願いだから死なせて―─
あとがき
病みまくってます。
ユウナ、がんばれ!
(2005.11.16)