「傷は浅いですから、入院することもないでしょう」



背中の右側に浅い傷を負って、病院に運び込まれたユウナは 医師にそう告げられる

数日は様子を見て、しっかり休養して下さい
そう付け足すと医師は、ぐるぐると丁寧に包帯を巻いてくれた





「その…、は…」

「あぁ、あの女の子はしばらく休ませた方がいいです」

「…はぁ」

「精神的にだいぶ滅入ってるみたいですから、必要があれば精神科医にも…」




助けて、と
カッターを片手に振り上げたが そう叫んでるように聞こえた

不安で不安で、仕方が無くて
だいじょうぶだって言って欲しくて
泣いてるように思えた








「…わかりました」

「お大事になさって下さい」




静かにドアを閉めて診察室から出ると、そこにいたのはドクターと時計屋




「僕は大したこと無いよ」

「よかった…」




心配そうな顔でこちらの様子を伺う2人を気遣って
傷は痛むがそう言った





「時計屋さん、を助けてくれて本当にありがとう」

「あぁ、ちゃんと嬢ちゃんを見ててやってくれよ」

「…失礼なこともたくさん言ってしまったみたいで、」

「気にすんなや!その代わり今度また2人で来てくれ。それでチャラだ」

「…ありがとう」





が異常な状態で手首を切ったことも
婚約者がいるのにとユウナが一緒にいると言うことも
知ったはずなのに
時計屋は何事もなかったかのように笑い飛ばして、その場を去る






「ユウナ様…」

は連れて帰るよ。アレックスが今ザフトの人に連絡取ってる」

「ユウナ様」

「だから僕は 大丈夫だって」





恋人が手首を切ろうとするなど それも本人の目の前で
そんなこと普通耐えられることではない

だが心配するドクターを振り切って、ユウナはの病室へ向かった




























コンコン、と軽くノックをして病室のドアをあける


の側にはカガリについてもらっていたから
そこには心配そうにを見守るカガリの姿があった






「ユウナ!大丈夫か!?」

「あぁ、僕は…それより…」

「…うん、さっきまで起きてたんだけどな」





今はスースーと寝息を立てて眠っているようだった
でもその表情は決して安らかなものではない
目を瞑っていても はっきりとわかるほどに





「連れて帰るのか?」

「うん、そうするよ。アレックスにも先に戻ってもらってるから」

「…じゃあ起こそうか」




 と優しく声をかけ、そっと体をゆする
すると眉を少しゆがめて、はゆっくりとその目を開いた





「ぁ……」




その目が一番始めに映したのは ユウナ
心配そうにこちらをのぞき込んでいるのがわかった

ぼーっとする瞳は、徐々に記憶を蒸し返していく




大好きなラスティ
大好きなユウナ




大好きなのに 傷つけたのはだれ?
大切な人を なんども傷つけたのはだれ?






「ごめ…」

、帰ろう」

「…ごめんなさい……っ」

、」

「ごめんなさ い ごめ…なさ…」



のそりと起きあがり、とにかく謝った
両の手は 必死にシーツを掴む
顔は下に向けたまま 涙も重力に逆らえずにぽたぽた落ちるまま





その姿は 出会った頃のとなにひとつ変わらない
不安で仕方なくて
謝って 泣いて どうしようもなくなってる
あの時のと なにも、変わらない







だからこそ僕はもう 逃げちゃいけないんだ









「もう何も怖くないよ」







そう呟くと、小刻みに震えていた肩が、少し落ち着きを取り戻したかのように見えた
は、泣いてしまったせいで乱れる呼吸を 必死にととのえる




「大丈夫。うちに帰ろう」





自分の大きい心臓の音と、泣き声で少し聞こえにくかったが
ユウナの声は確かに心の奥まで届いた





あたしは貴方を、裏切って 振り切って 傷つけた

なのにどうして優しくするの










あたしは幸せになっちゃいけない


たくさんの人を殺した
たくさんの人を傷つけてきた

笑っちゃいけない
甘えちゃいけない

いっぱいもがいて苦しんで



なのに








「大丈夫だよ」




なのにどうして
貴方はあたしの一番欲しい言葉を知ってるの…



























フ、と気が付いたらはドクターの運転するエレカに乗っていた
助手席にユウナ の隣にはカガリがいて、肩に手を回してくれている


気を失ったわけではなく、ボーっとしていてここまでの道のりが記憶に残っていなかった
たくさん泣いたためか、すごく頭が痛い



(ぐちゃぐちゃだ…)









まだハッキリしない頭で考える
あたしは何をしたいのか 今からどこへいくのか 



(今…ユウナの家に行くんだっけ…)



どうしてあたしなんかを連れて行くの
あたしはいろんな面倒を背負ってるのに


連れて行っても損しかしない
それにあたしはあなたを刺したのよ





(そっか…あたし死ななくっちゃ…)



どうして助けてくれたの
ユウナも ラスティも
なんで身を投げ出して こんな命を助けようとするの










ひとつの答えを求めようとすると、次々とまた疑問が生まれる
今の自分では 何一つ解決しない








「あたし、生きてなくちゃダメなの?」


は考えることをやめ、少しだけ息を吸ってからぽつりと呟く

それは本当にかすかな声だったが、すぐ側にいたカガリにだけ届いた



…?」

「ど うし て …」




ぼーっとする頭は目覚めることなく、をまた眠りの世界へと誘った


































あとがき
みんないっぱいいっぱいです(汗

(2005.12.25)