、着いたぞ」





少し男勝りな声に起こされ、はまた重い目を開いてぼーっと考える
たしか この声はカガリ
あたしのすぐそばにいて
着いた、というのは どこにだっけ?
そっか ユウナの別館だ



次第にはっきりとしてゆく意識の中で、車の窓から外を覗いた
少し遠かったが、そこにはどうにも見覚えのある2人がいる


こちらの様子を伺うようにゆっくりと近づいてくる










「降りれるか?」

「うん…だいじょうぶ」





カガリに支えられながら降りてきた少女の姿は

記憶がなかった時のものとも
記憶があった時のものとも
どちらからも想像出来ないような姿だった


目は赤く腫れ上がり
そのくせ顔色はとても悪い

手首には包帯がぐるぐる巻きにされていた










それなのに空はいつの間にか明るくなり、昨日の雨が嘘のようにすっかり晴れて
を追いつめるかのように嫌みなほど太陽が輝いていた





















…!」

照りつける日差しによろめきながら、玄関口へ向かって歩き始めると
さっきこっちを覗いていた男のうち1人に呼び止められた



「ディー …?」

「思いだしたんだって?」

「………」

「ディアッカ!」



詳しいことを聞こうとするディアッカに、
今はこれ以上話しかけるなとアスランが止めに入る

それを横目で見届けて、は別館へと足を踏み入れた






「それにしても、早かったな」

「あ?俺?」

「あぁ、連絡してからすぐに飛んできたじゃないか。プラントから」

「当たり前だろ!俺だってずっと気になってたんだ」

「イザークは?」

「あいつも同じ。でも残念ながら仕事の都合で離れられないってさ」

「そうか…」



ディアッカは浮かばれない表情をするアスランの肩をぽんと叩いて、中へ入ろうと促した

こいつはずっと近くでを見てきたんだ
辛くないはずがない
俺もしっかりしなければ
























いつもの部屋
あたしが初めてここに来てから、ユウナがあたしにくれた部屋
少し大きめのベッドがひとつあって
突き当たりにもうけられた窓からは緑があふれる綺麗な庭が見える
窓際にある小さなテーブルには、以前花火大会に行った時のぬいぐるみがちょこんと置かれてあった




あたしはずっとここにいた
もう1年と、何ヶ月になるのかな




カガリに支えられながら、おぼつかない足取りでベッドまで歩く
そしてそこへ腰を下ろした





「お前、色々あって疲れてるんだ。しばらく休めよ」

「…うん」



こんなあたしににこりと微笑みかけてくれたカガリは、仕事があるといって心配そうに部屋を出た
あたしの側には今、ドクターとディアッカとアスラン、そしてユウナがいる











、少し話をしよう」

「……ユウ ナ」








テーブルに備え付けてある椅子に腰掛け、ユウナは優しい口調で語りかけてきた


やだ
いやだ
そんな顔しないで

あたしは死のうとしてるんだよ




「話さなきゃ、君はずっと暗闇のまんまだ」

「も、う ほっといてよ…」

「大体の話はアレックスから聞いたよ」

「ほっといて!!!!あたしに構わないでよ!」



「あたしの命はもうずっと前に終わってるの!」

「ッ!!」








次第に声を張り、言って欲しくない言葉ばかり並べるを止めようと
ユウナは両手で彼女の肩を掴み、じっと目を見つめる




…、君は確かに今ここに生きてるじゃないか!心臓だってなってる!血も流れた!」

「離して!終わったの!!生きてちゃいけないの!ラスティを殺した…!!あたしがラスティを殺した!」

「違う!」

「忘れないよって言ったのにあたし!あたしは忘れた!あたしの命…は、存在しちゃいけないの」



 
あたしの涙はいつまで枯れないんだろう
軍人の頃なんて、絶対泣かなかったのに
今のあたし、バカみたい みっともない 情けない
自分で言ってることの意味もよく判らない なにをしたいのか どうしたらいいのか
何にもわかんなくって ぐちゃぐちゃで

だから
まっすぐに向いてるユウナの目なんて とてもじゃないけど見ることが出来なくって


あたしは目線を思いっきり逸らしてそう言った






「バカなことばかり言うな!ラスティはなぜ君をかばった!?」






今までのユウナが嘘のように、大きな声が部屋に響き渡る
その勢いで、の肩に置かれた手にもつい力が入った

アスランもディアッカもドクターも
そんなユウナの姿に驚いたが、それほどにを想っているのだとすぐに感じることが出来た




「いやだ!やだ!離して!ラスのこと何にも知らないくせに!」

「分かってない!なにもわかってないのは君だ!ラスティは君がそうなることを望んだのか?!自分の命を犠牲にしてまで、なぜ君をかばったんだ!」






届け
頼むから届いてくれ

ただひたすらそう願いながら、ユウナはひとつひとつ言葉を選ぶ



「ゆっくり考えて。絶対に死のうなんて思わないで。」

「………」

「ラスティもきっと、そんなこと望まないよ」

「やだ……や だよ…ラスティ…」

「大丈夫、には みんながついてる」

「…………」











肩を掴んでいた両手をはずし、ぽんと頭に手をやった
その手の温かさが、今の彼女には伝わるのかわからないけれど



僕と過ごした日々は 君にとってなんだったんだろう
記憶を取り戻した今、辛い物でしかなんだろうか
おそらくは 本当にラスティが好きで 大好きで どうしようもなくって
こんな日が来ることも 
彼が居なくなることも
きっと想定してなかったのだろう



だけど僕も 君と過ごして分かった
僕にとっては 誰よりも大切で 誰よりも愛おしくて
君がこうなることも もちろん想定なんかしてなかった


だけど僕は 君と過ごした日々を辛い物だなんて思わない
そんなの絶対にいやだ
だからにも、そう思って欲しくないよ








「ユウナロマ…」




アレックスに名前を呼ばれ、ふと気付くと涙が流れていた
だからダメなんだ、一人で考えるのは
マイナスの方向にしか傾かない





「ご、ごめん、何でもないよ」

「なぁ…ユウナさん」





いそいそと頬を拭うユウナに声をかけたのはディアッカだった




「な、なんだい?」

「俺と、ちょっとだけ2人で話させてよ」

「え?」

「これでも俺、こいつのことちっとは分かってるつもりだからさ」

「あ、あぁ うん、判った」




そうしてディアッカに促されるままユウナとドクターは部屋をあとにする



「ディアッカ、大丈夫なのか?」

「俺そんな信用ない?」

「いや、そういう意味じゃ…」

「大丈夫だよ、なっ



ディアッカと
仲が良かったのは知っているが、2人きりにするのは今のの状態をみるとあまりよくないんじゃないか
そう心配するアスランも、ディアッカに背中を押され、無理矢理に部屋を追い出された








「さぁ、本音の話をしようか」
















































あとがき

正常なちゃんはこんなに狂ってません よ…!(とりあえず誤解のないように(笑))
(2006.01.27)