彼に告げなければならないこと







それは、このままここに暮らすわけにはいかないと言うこと
甘えっぱなしではいけない
自立して、一人で暮らして、働かなきゃいけない
それを彼に言うためにも、昨日一晩考えたのだ















「ユウナ、あたしね」

「ん?」



焼き上がった食パンに苺のジャムをぬっている最中の彼に話しかけると、その手はぴたっと止まってしまった



「ここ、出てくよ」

「え!?」




からーん と音を立てて、ジャムが付いたスプーンがユウナの手からこぼれ、テーブルに落ちる
あんまりにもありきたりな反応を取るユウナに、言った本人も少し驚いてしまった




「これ以上ユウナに甘えるわけにもいかないし、オーブで暮らすって決めたからには自立しなくちゃ…」

「いいよ!気にしないでいいよ、そんなこと」

「だめだよ、お金だってかかるし、」

「いいから!本当に、気にしないで!」

「でも」

!!!!!」



急にユウナがソファから立って自分の名前を大きな声で呼ぶので、とてもじゃないが反論出来なくなった
座ったままのは、彼を少し控えめに見上げると
ユウナは急に顔を真っ赤に染めてゆっくりとまたソファに腰を下ろした




「お願いだよ、出て行かないで欲しいんだ」

「ユウナ…?」

「お願い、きけないかい?」

「で でもあたし 」

「金銭面が気になるなら、アルバイト始めたらどうかな?」

「それは、そのつもりだったけど…」

「だったら住む場所はここでいいよ!」




そう言ってまた彼は大きな声を上げる
それだけで十分気持ちは分かった 建前で言ってるんでも何でもない
ユウナは本気であたしを止めてくれているのだと


嬉しい すごく嬉しいよ
嬉しいけど、だけど…




「アルバイトはもう決まってるのかい?」

「…まだ 今日から探そうかな、って」

「そ、っか。でも本当に、気にしないでね」

「うん、ありがとうユウナ」



そしてまた食事を続ける
ユウナは先ほどテーブルにスプーンを落とした際 付いてしまったジャムを拭いていた
はなんとなく部屋を見渡すと、昨日より片づいていることに気付く








そうしている内にテーブルを綺麗にし終えたユウナが、少しまじめな声で語りかけてきた
どうしたのだろうか




「僕、謝らなくちゃいけないことがあって」

「…ん?」

「記憶を取り戻すちょっと前、僕に怒鳴ったよね」

「あ…、うん…」

「あの時は本当に、ごめん。火事にでもなったのかと思って…」

「そんなのいいよ、あたしもごめんね!」

「紅茶、入れようとしてくれてたの…あとから知って」

「…!」

「何て事言ってしまったんだろうって、すごく後悔してて」

「本当に気にしないで!!あれはあたしが悪いんだよ、ねっ」





それにユウナは心配してくれたから、ああ言ってくれたんだし…
と続けるを見て、少し心が痛んだ


傷つけて、怖がらせてしまったから
少なくともこれがきっかけになっては記憶を取り戻したんだ




でも 記憶を取り戻した ということはにとっては良いことで 
僕はいま何を考えた?




記憶はないままが良かったって  考えてた?









「ねぇユウナ」




一人走りする思考を止められず、ぼーっとしてしまった
明るく振る舞い続けるに 前を向いて生きようとしてるに 申し訳ない事を、僕は…
そう考えたあと、やっと名前を呼ばれたことに気が付いた




「…あ、うん」

「?  ユウナ、コーヒーは好き?」

「うん、好きだよ」

「じゃあ今度、ブレンドして入れてあげる!!」




ホントはね、料理もちゃんと出来るんだよ



そう言ってまた笑いかけてくれる
じゃあもう火事の心配もないね 、って笑って答えようと思ったのに


胸の中のもやもやがどうしても取れなくて






「ありがとう」







それしか言えなかった













 
















あとがき
今更ですがほんとユウナじゃないなぁこれ(笑)
でもこのユウナでこれからも突っ走りますので^^

(2006/08)